太陽と木とフィボナッチ数と少年。


森を歩いていた少年に訪れたあるインスピレーション。自然のデザインに対する彼の飽くなき探究心が、ソーラーパネルの発電効率を大きく向上させることになるかもしれません。

I am the Lorax. I speak for the trees. I speak for the trees for they have no tongues.
わしはローラックスじゃ。木々に代わって言わせてもらうぞ。舌を持たぬ彼らのためにな。



13歳になったエイダン・ドワイヤー(Aidan Dwyer)少年の研究レポートは、一冊の絵本の引用から始まります。

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ある冬の日、ニューヨークのキャッツキル・マウンテンをハイキングしていたエイダン君は、すっかり葉の落ちた木の枝を眺めているうちに奇妙なことに気づきます。葉が繁っているときにはただ奔放に絡み合ってるように見えていたのに、枝に残された葉の痕跡には、ある一定のパターンがあるように見えたのです。
彼はいくつかの種類の木を写真に撮りました。そしてそこには、それぞれの木の種類によって異なった葉の並び方の螺旋状パターンが、はっきりと写っていました。

“木に隠されたこの螺旋のパターンは、よりたくさんの太陽光を集めるためのデザインなのだろうか?”

キャッツキルの山間からはじまったエイダン君の調査は、自然の中に数学的な法則を見つけた18世紀の博物学者の研究から、13世紀イタリアのピサの街角へ、さらに古いインドのサンスクリット語の数学書、そして黄金分割の神秘的な数式へとたどりつき、ついには自宅の裏庭で、ある発見につながることになりました。

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エイダン君はまず、枝と葉のパターンから調べることにしました。そしてチャールズ・ボネットという博物学者が、1754年にまとめた研究を見つけます。
ボネットは、木の葉は枝に対して一定の規則性(葉序)をもって螺旋状に配列(螺生)していることを発見し、様々な木の葉の配列を、円周に対する真分数で記録していたのです。

螺生葉序と呼ばれるこの配列は、例えばオークの木の場合、2周回転したときに5+1枚目の葉が起点の葉と重なるパターンを持っているので、360度の2/5(=144度の開度)葉序であると分数表記されます。
これは木の種類によって異なり、ニレの木の場合は1/2、ブナの木は1/3、ヤナギは3/8、アーモンドは5/13の螺生葉序を持っているなど様々です。
この分数は360度を1とした値ですから、上記の葉序は、1からその分数を引いた数としても表すことができます。葉が144度の開度で2周展開(2/5葉序)するということは、回転方向を逆さにとらえると、360度-144度=216度の開度で3周回転(1-2/5=3/5葉序)するのと同じことになります。

そして数少ない例外を除きほとんどの植物は、以下のようなパターンの螺生葉序を持っています。

1/2(1/2)葉序
1/3(2/3)葉序
2/5(3/5)葉序
3/8(5/8)葉序
5/13(8/13)葉序
8/21(13/21)葉序...

実はここに現れる数字を小さい順にならべていくと、

1,2,3,5,8,13,21...

となり、そこにはフィボナッチ数が姿を現すのです。

フィボナッチ数とは、1202年に、ピサのレオナルド(レオナルド・ダ・ピサ、レオナルド・フィボナッチはあだ名)が自著「算盤の書」で西洋に紹介したもので、インドの数学者の間では6世紀頃から知られていた数列です。最後の数値に前の数値を足して次の値とすることを繰り返していくだけなのですが、不思議なことに、隣り合う数値で真分数をつくると、大きくなればなるほどその値が黄金比に近づくという特徴があります。

フィボナッチ数列と葉序について、大日本図書にとてもわかりやすい教材が掲載してありました。下の矢印で次に進めます。


エイダン君がスケッチした、フィボナッチ数を示すの螺生葉序。

葉のつき方のスケッチ

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おそらく、ふつうの子は、おそらくは大人の多くもここで満足します。
葉の配列にはフィボナッチ数列が現れ、それは黄金比に近づくようになっていることがわかりました、その方が古い葉に新しい葉が重ならず、効率がいいからです、で、レポートも完成です。

でもエイダン君は違いました。

ここまででは、“…よりたくさんの太陽光を集めるためのデザインなのだろうか?”という質問の充分な答えになっていないからです。
(それに、両親の家の小さな庭でも充分な電力を発生するソーラーパネルを設置する、という隠された動機もあったようです)

フィボナッチ数の葉序パターンは、はたしてより多くの太陽光を集められるのか。エイダン君は、光合成の代わりにソーラーパネルの発電量をつかって、螺生葉状配列と平面配列の集光効率の差を調べることにしました。

エイダン君がコンピューターでつくった、オークの配列を真似た螺生葉序型パネル設置台の図面

螺生葉序型パネル設置台を製作風景

比較用の平面ソーラーパネル

裏庭に設置したふたつのモデル

実験は10月から12月にかけて3ヶ月にもおよびました。冬至に向かうにしたがって、陽は短く、太陽光の角度も浅くなりますから、太陽光発電にとっては非常に厳しい環境です。また、影や反射などによる条件の差をなくすため、何度か設置場所も移動しました。

その結果は、とても興味深いものでした。

螺生葉序型パネルは平面パネルに比べ、およそ20%増しのピーク電力を発生し、しかも一日あたり2時間半も長く発電したのです。
12月に入り陽が大きく傾くとその差はさらに広がりました。ピーク電力はなんと50%増しとなり、発電可能時間は一日あたり1.5倍にも達しました。

日別発電量グラフ:螺生葉序型パネル

日別発電量グラフ:平面パネル

螺生葉序型パネルと平面パネルの集光時間を示す10月と12月の円グラフ

10月と冬至の、螺生葉序型パネルと平面パネルそれぞれの発電量
螺生葉序型パネルは差がありません。

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この実験を通してエイダン君は、螺生葉序型を採用すれば、太陽光発電の効率を上げることができる可能性があることを発見しました。それが古い葉に新しい葉が重なること無く並べられることから得られる効率以上のものであるということも。

また、季節や他の自然要因がある中で太陽光からエネルギーを得るのは一筋縄ではいかないということ -- 平面パネルは、他の物の影になったり、雪が積もったりするのに大変弱く、その点多様な角度を持つ螺生葉序は、リスクが分散されるため、自然の場ではずっと効率がよくて、季節によって異なる太陽光の傾きや日照時間の変化にも強いということもわかりました。


でも彼の探求はまだまだ終わりません。

“なぜ多様なフィボナッチ数の葉序があるのか? どのフィボナッチ数がいちばん効率がいいのか?”

彼の次の目標は、もっと大きな装置をつくって、あらゆるフィボナッチ比の螺生葉序を試すことだそうです。

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螺生葉序の不思議さは、植物が数学を理解していて、ある美学をもって黄金律に収束しようとしている、そしてそこには意味があるのだ、などとと勘違いしまうほどですが、実際には植物は単に生存のためのベストな方法を物理や数学の法則に逆らわずに探りだしているだけで、パターンが数学的であることに特にインテリジェントな意図はありません。

自然は常に最大の効果を生む最小の仕組みをつくりだします。それは静的な効率の追求ではなく、とてもダイナミックなものです。木が採用している方法は、太陽光に対して立体的なのはもちろん、成長と衰退の時間軸や様々な妨害も変数に入れて磨きこまれたものなのです。

種類によって違うフィボナッチ数を採用することの利点のひとつに、環境の多様性を得やすくなることが考えられます。もし自然がたったひとつのルールしか用意せず、その競争で一番強い単一種だけが高く枝を張り、決して下に光を漏らさないようにびっしりと葉で覆ってしまうことになったら、その種は生存のためのすべてを自分で用意しなければならなくなってしまいますし、だいいちそれでは自分自身の代謝もおぼつきません。生存のためにはよくばらず、性質の違うものと助けあって共生するのがいちばん得策なのです。

But the best part of what I learned was that even in the darkest days of winter, nature is still trying to tell us its secrets!
でも今回いちばん素晴らしいなと思ったのは、どんなに暗い冬の日でも、自然は僕らに秘密を明かそうとしてくれてるってわかったことなんです!

~エイダン・ドワイヤー

Source: American Museum of Natural History -- Young Naturalist Awards Via treehugger

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ちなみに冒頭で引用されていた名作、ドクター・スースのザ・ローラックスは、子どもたちに林業に対する否定的な見解を芽生えさせる恐れがあるという理由から、アメリカで公共の図書館の書架などから撤去するよう請求をおこされています。
林業が盛んなカリフォルニア州では、すでに公共学校で禁書に指定している町もありす。

異質な存在を許さないシステムがどういう結末を迎えるか、自然はすでにその答えを教えてくれているのですが。

2011/11/14 by Tate Slow
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